鳥型機のはじまり  

2002年春 鳥のように滑空できたら
 


「鳥は、なぜ飛ぶのだろうか。」
それは、滑空すると気持ち良いからであろう。風が強い日、ビルと角や高い木の近くは、風が渦を巻いているようだ。そんなところに、カラスがやってくる。まるでジェットコースターのように風の渦の中を急降下、急上昇、旋回を楽しんでいる。滑空することが楽しいのだろう。
 私がスキーをしたときも、こぶ斜面を滑走するとき、大きな快感を感じていた。山の上で食事をしようというのではない。逃げて山の上に行こうというのでない。スキーの板を逆ハの字にして山を登ることが楽しいわけではない。滑走するときが楽しいのだ。
 鳥だって、羽ばたくより、滑空することが楽しいだろう。 

  鳥を見ると、なぜか垂直尾翼が無い。魚類→両生類→は虫類→鳥類と進化を考えていくと、なぜ、魚類に尾びれにあった垂直尾翼が鳥類になって無くなったのか不思議になる。「鳥類は、背びれの無い恐竜から進化したからだ。」と、当然だというような返事が返ってきそうだが、これは答えになっていない、イルカのように海に戻ってから、背びれができてきたほ乳類だっている。必要なら背びれがあるはずだ。「鳥類に背びれが無いのは、必要が無いか、じゃまだからだろう。」と考えてみた。そう考えていくと、鳥と飛行機は、違う方向に進化していると言える。 飛行機は、鳥のようには滑空していないのだ。
 鳥の滑空の仕組みで気持ちよく滑空する鳥型飛行機を作れたらと思った。
     

 旋回での尾のはたらき?
 

 トンビの飛行を観ていると、尾をときどき傾ける。尾を傾けることで旋回できるのだろうか。そう思って、紙飛行機で何度も実験してみましたが、うまい具合に旋回できません。
 トンビの旋回での尾の動かし方は、右左と動かし、旋回と尾の動かし方のルールがなかなか見えてきません。なんども観ているうちに、左旋回では、旋回に入る前に右に傾け、旋回に入ると左に傾けるように思えてきました。
 そんなとき、鎌倉の海岸で、病気でしょうか尾の無いハトがいました。ビデオもって追いかけていくと、尾がないのに普通に旋回したりしながら、飛行していきました。旋回に尾が必要ではないなら、どのようなはたらきをしているのでしょう。

no tail feathers 
 
鳥型   

 鳥型飛行機を始めたきっかけは、動物の進化です。「必要な物が進化によって現れ、不要な物は退化してなくなることがある。」という考えから「鳥に垂直尾翼は必要ないからだ」と考え、そんな鳥のように旋回する鳥型飛行機を作ろうと思いました。
 鳥が旋回する仕組みで旋回できるとき、鳥型ということにしました。

 no big angle of sweepback   no transparent vertical tail   not use a tail as V form   not use legs as a vertical tail
       
 
垂直尾翼が無いという効果は? 

 14歳の時、横に長い紙飛行機を作って飛ばしたことがありました。真っすぐに飛ばそうとしても、調整が難しく、垂直に曲げた翼端は、垂直尾翼のように機能しません。しかし、窓から飛ばすと、旋回しながらぐんぐんと上がっていきます。不思議だなと思いながら、20年以上が過ぎて、鳥型を作ろうと取り組み始めたとき、思い起こしたのは、このときの不思議な思いでした。
 鳥に垂直尾翼が無いことに、何か意味があるのでしょう。

2002年4月 鳥型を考える


 鳥と飛行機とは違う。
・水平尾翼を支える胴体が短い。
・垂直尾翼が無い。
・翼にほとんど後退書くが無い。
・翼の長さに比べ胴体が短く、横長。
そして、滑空する姿は美しい。

 鳥のような形で垂直尾翼の無い航空機を見たことがない。これまでの人生経験から、例が無いのは、当然と思われていて例を出さないか、不可能なので例が無いかだ。果たして、鳥型は滑空できるのだろうか。

 まずは、テストしてみようと、ノートサイズの垂直尾翼の無い模型を作って飛ばしてみた。
 これは、飛んだと言えるのか、飛ばないと言うべきか、微妙だ。一瞬滑空し、そのまま行けるかと思ったら横滑りして落ちてしまったりして不安定なのだ。飛行機にするには、透明な垂直尾翼をつけるか、後退角をつけるかだろう。しかし、そうしたら、鳥とは異なる仕組みで滑空することになり、鳥型飛行機にはならない。
 自立安定性が問題なら、ラジコンにすれば、操縦できるのだから、なんとかなるのかもしれないと思った。そのようなラジコン機がなかったのは、これまで、ラジコンの送受信機が大きく重すぎて、鳥型飛行機を作るのが大変すぎたからかもしれない。今のラジコンの受信機やサーボは、軽量にできていて模型サイズで鳥型飛行機が作れそうだ。いい時代になったものだ、特別な研究者でなくても、小遣い程度で、鳥型飛行機の実験ができる。


2002年5月 初めての鳥型飛行機
  翼長140cmの垂直尾翼の無い機体を作って、ラジコン装置を乗せた。主翼は、発泡スチロールに1mm厚のバルサ材を貼ってある。  水平尾翼には、エレベーターがある。主翼には、エルロンがあり、いわゆるエルロン機のスタイルだ。まずは、これで滑空中に操舵したときの動きを調べてみようと思った。
・短い胴体。
・垂直尾翼が無い。
・翼に後退角が無い。
まさしく、鳥型である。

 テスト飛行
 草むらで水平に押し出すと、真っすぐに滑るように滑空を始める。すこし横にそれていくので、真っすぐに戻そうと舵を打った瞬間に墜落した。
 何度やっても、舵を切ると90°ほど傾いた姿勢で横に落ちる。普通にエルロンを使うと曲がれないのだ。
 翼端に発泡スチロールのトレイを切って、スポイラーのように突起物をつけてみたが、かなり大きく飛び出るようにつけないと、旋回しようとしない。鳥にそんなに大きなスポイラーがついていないので、これで旋回できたとしても採用できない。 

 とんでもないところに落ちて、拾いに行くのも大変である。いつの間にか、長靴をはいて飛ばすのが普通になった。
 
 改良
  翼にあるエルロンでは、曲がれない。それなら尾翼で曲がろうと考えて、尾翼をカーボンパイプに接続し、回転できるようにした。左に旋回しようとするときは、尾翼を左に傾けてアップにする。単純にそう考えたが、試してみると、滑空中に旋回の操舵がアップの操舵になるので、曲がろうとした瞬間に速度が落ちてしまい、失速してお尻から落ちてしまう。尾翼の操舵で、滑空しながら旋回するのは、難しそうだ。
 土手の上から投げて10mほど直進したところで、旋回の舵をきると傾きながら、横滑りして、墜落する。
結論
 水平尾翼とエルロンでは、小さく自由に旋回できず、気持ちよくない。見ている人から、透明な垂直板をつけたらどうかとか言われた。至極当然である。
 しかし、鳥型を考えている。鳥に形が似ているのではなくて、鳥の滑空の仕組みで飛ばなくてはいけないのだ。


2002年7月 鳥のように美しいが
 
 鳥型を作ろうと考えているのだから、鳥の様子から考えていこうと考え直した。
 鳥の旋回の様子を観察すると、旋回時に必ず尾を傾けているわけではない。ということは、尾を傾ける動作は、旋回に必ず必要な動きでは無いのだろう。もう一度、翼の操作だけで旋回する方法を試してみようと思った。
  エルロンで旋回しようというのだから、鳥の翼のような形をした大きなエルロンをつけたらどうだろう。とにかく作ってみよう。 
 ななめ後ろから見ると、鳥のようで恰好が良い。鳥に似ているのだから、鳥のように旋回できるのではないか・・・と、微かな期待を持って、テスト飛行に向かった。
 テスト飛行

 手に取ってみると、後ろ姿が美しい。この鳥のような美しいスタイルで、旋回できたら、最高だと思いながら、草むらで真っすぐに投げてみた。
 数メートル直進したところで、左右に舵を切ると、あっという間に落下した。急激に横滑りを起こしているようだ。何度テストしても、舵を切った瞬間に墜落してしまう。


左に横滑りして墜落
わずかな時間、直進して滑空 右に横滑りして墜落
改良 

 「翼単のエルロンでは、旋回できない。」と考えながら、自宅に帰り、尾翼の胴体部分を45度方向に切断し、ラダースティックで、尾翼が斜めに角度がつくように改良した。考えてばかりでいるより、試した方が良い。
 これで、滑空のテストをしてみると、草むらで水平に投げたときは、曲がろうとするのですが、頭が上がりすぎて失速してしまいます。思い切って、土手の上から滑空テストすることにしました。高度があるので、旋回する前にダウンを打ち、左右の舵を切り、頭を上げるので、すぐにダウンを打って水平にするという操作となった。旋回はできるのですが、苦しい操縦だ。
結論
 「気持ちよく滑空する」から見ると、不合格です。
 「鳥型機が紹介されていないのは、普通にできるからではなくて、不可能だからなのだろうか。」
いずれにせよ、鳥型飛行機の開発はおもしろいかもしれない・・・。


2002年8月 尾翼を3分割して傾ける
 土手の上から、見下ろすと、スキーを連想する。二十歳を過ぎて始めたスキーなので、小さなチェック動作から反動を使って細かくターンする技術を身に着けるまでは、曲がれずに苦労した。鳥の滑空での旋回も、そうなのだろうか。あえて横に滑らせたり、尾をひねって小さな反動をつけたりして、動的な旋回をしているのかもしれない。いずれはそのような旋回方法を試したい。
 遅く始めたスキーでは、私の感覚の中で、ボーゲンとパラレルターン、ウェーデルンはつながっている。ウェーデルンのような美しいボーゲンのイメージをもっている。鳥が動的なパラレル旋回をしているとしても、鳥のボーゲン旋回から始めればよいだろう。
 ターンのきっかけをどのようにつくるか。 尾翼を斜めにしてアップをとることで、旋回はできるが、頭が上がりすぎる。ということなので、尾翼の傾けるととアップをとることが別になるように3分割した。「普通のエルロンで、旋回方向に傾け、横滑りしたら、傾いた尾翼で、機首を旋回方向に回す。」と考えてみた。
尾翼は、斜めにする動きとアップ・ダウンの動きを別々に行えるようにした。しかし、別々になっているものの、斜めにして、アップやダウンをとれば、斜めの方向に機首を向ける力が生じるだろうし、斜めの状態で、横滑りすれば、機首を上げる、下げるの働きが生じるだろう。
 一体どうなるか、予想がつかない。とにかく、やってみるだけ。


 尾翼を下から見る

 テスト飛行
 草むらで、水平に投げてみると、横滑りしますが曲がれそう。
 土手の上から投げて、旋回・・・頭が上がる・・・横滑り・・・頭を下げる・・・直進に戻る・・・再び旋回に操舵・・・頭が上がる・・・ 
 結論
 旋回時にアップの操舵になってしまうことが問題のようです。水平部分を平行にすれば改善できるだろうか。


2002年8月 尾翼を平行に3分割
 尾翼の折れる部分を平行にしたからといって、何かが変わるだろうか。予想がつかないが、試せることは、試してみようということで、改造を行いました。

 3分割した尾翼の水平部分を少し大きく変更し、取り付けを平行にしました。
 これで、アップ・ダウンと傾けが別々に操舵できますが、別々に作用できるかは疑問です。

 尾翼を裏から見ると、左右に傾けるクランクが見えます。 
 
 テスト飛行
 エルロンを切ったときに、尾翼が傾くように動かします。V型テールほどではないけれど、どうにか旋回ができます。しかし、大きく舵を切ると、旋回方向とは逆方向に機首を向けるような反応があり、不快です。
 結論
 この程度の改造では、効果が感じられない。 


2002年8月 白いカラス


 尾翼を流れる気流によって、旋回ができそうな感じがしてきました。そこで、主翼の下に1cmほどの隙間をつくり、降坂流が尾翼にあたるようして、前回よりも、さらに水平の割合を多く尾翼を3分割してみました。
 シルエットは、白いカラスです。これできれいに旋回してくれたら、ありがたいです。

 後ろから見ると、左右に舵を切ったとき、水平部分が残ります。
 テスト飛行
  土手の上から投げて、左右の舵をエルロンで切ってみると、頭上げと横滑りがありますが、旋回できます。
 やはり、大きくエルロンを切ると、逆方向に機首を向ける動きがあり、きれいな旋回とは言えません。
 結論
 この程度の水平部分では、きれいな旋回はできません。


2002年11月 水平部分を大きく尾翼3分割
 尾翼の水平部分をさらに大きくしました。


 テスト飛行
  今度は、きれいに旋回ができます。後ろから見ると、旋回時に尾翼の左右が垂直尾翼のような角度になります。これでいいのでしょうか。
 結論
 鳥が旋回するときは、必ず尾を傾けるわけではありませんが、この鳥型機は、旋回で必ず尾を傾けて垂直面をつくることになります。論理的に考えれば、鳥型機は、尾翼を使わず旋回できなくてはいけません。
 「鳥の仕組みで滑空する」という鳥型飛行機開発の初心を思い出しました。 尾翼を使わない旋回方法について、もう一度考え直すことにしました。

2002年12月 主翼をねじる
 翼で旋回するとしたら、エルロンの動的な動きで旋回するという方法もあるかもしれないが、それは後で試すことにして、まずは静的にどこかを曲げるという方法から始めたい。
 
 うまく旋回できない鳥型飛行機をテストしていると、ギャラリーからは、「鳥は、翼の先端をちょこちょこっと動かして旋回しているのではないか。」などの意見が出ます。 しかし、鳥には風切羽根を動かす筋肉は無さそうです。鳥が操作できないところを操作して旋回したのでは、鳥型になりません。筋肉のある翼の部分がどうにか動かしているのでしょう。いろいろ動かしているうちに「ねじること」は、まだ試していないことに気づきました。

 そこで、エルロンを2分割(スプリットして)して、ねじるように動かせるようにしてみました。


 テスト飛行
 舵を切った瞬間に機首を旋回方向に向けます。この方法で、旋回ができました。
結論
 スポイラーよりもはるかに効いている感じです。これはいけそうです。テスト飛行で、いろいろ試したので、ガタガタです。
 新しく、シンプルな機体を作り、舵の効きを確かめることにしました。  


2002年12月 トンビ1号 スプリットエルロンAとスプリットエルロンBによる鳥型飛行機の成功


 翼をねじったときの働きを知りたいので、それ以外の部分をシンプルにした機体を作成しました。










 上反角無し、テーパー無し、尾翼の回転無しです。

 テスト飛行
 手から投げてみると、左右の舵に反応して、機種を旋回方向に向けます。大成功です。少し横滑り後の巻き込みが気になります。
 改良
  横滑り後の巻き込みは、翼端にフィンをつけるか、上反角で防げるでしょう。そこで、翼を切断し、少し上反角をつけました。
 尾翼は、エレベーターの取り付け角を45度ほどつけ、後ろから見ると、傾ける操作ができるようにしました。

 改良後、巻き込みは、気にならなくなりました。安定も良く、カメラを持って、操縦しながら、自撮りもできました。
 結論
 右の外側を上げ、右の内側を下げる。後ろからみると、翼をねじったようになります。これで、右旋回ができます。このとき、尾翼は、後ろから見て、左に傾けると、旋回する力が強くなります。

 この方法をスプリットエルロンAと名付けました。

 いろいろ試してみると、右の外側を下げ、右の内側を上げる方法でも右旋回できます。この方法をスプリットエルロンBとしました。
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